2018年5月15日

天竜鰯

(俺・サトーさん)



 その名を初めて聞いたのは数日前、職場の上司で高校の先輩でもあるサトーさんとの会話の中だった。

 テンリュウイワシ・・?

 何だそれは!?魚介類には割と詳しいつもりの俺的には鮮烈な響きであった。

 サトーさんはブラックバス釣りに熱中する所謂バサーというタイプなのだが、どうやら彼の通う川にその未知なる魚も居るらしい。

 詳しく聞いてみると、俺も図鑑では見た事がある国産の魚のようだが、静岡県に生息しているなんて知らなかった。

 釣り対象魚として不動のポジションを確立しているブラックバスさえも釣った事の無い俺は、急激に淡水魚達の世界に惹きつけられた。

 そんな訳で、今回は地元を離れて県西部に位置する一級河川での釣行。

 

 サトーさんの車に御厄介になって、文字通り連れていってもらう形で見慣れない景色の中を進んでいく。

サトーさんの世話になる

 今日は川の本流域でカヤックに乗ってルアーで釣るのだが、カヤック乗りの人とつるんでの釣行は初めてだ。

 俺のスタンスとしては先ずは天竜鰯の確保を最優先として、あわよくばブラックバスも釣れちゃったらラッキーくらいの心構えだ。

 用意した竿は随分昔、渓流魚を釣った安物のトラウトロッドにワゴンセール品だった安物リール。

 それに安いナイロンラインが巻かれており、道糸直結で4Cm程のミノーを結ぶという仕掛けだ。

 一端なルアーマンから見たら、酷い有り様なのかもしれない。

 とはいうものの、滅多にやらない淡水ルアー釣りに掛ける予算もないので、これで強行する。

 そしてガイドしてくれるサトーさんは随分とバス釣りに精通しているようで、道具や釣り方に拘りがあるらしい。

 ワームやら潜るルアーなど、一般的な疑似餌で手を変え品を変えて釣っても価値を感じないという。

 大きくて沈まないルアーで、表層だけを狙って大型のバスに喰わせるというのが彼のスタイルのようだ。

 曰く、相当マゾい釣りとのことで、釣れればデカイが一日やっても一本獲れるかどうか・・という感じらしい。

 うーん、真似出来ない・・。

 長い運転(俺は助手席だが)の果てに入渓地点に到着したのは15時だった。

 夕マヅメに合わせてほぼ予定通りだが、川の水は想定よりも減水しているうえに濁りも濃い感じだ。

川か湖か

 気温は暑かったはずなのに、空は何時の間にか曇り気味で心配な雰囲気だ。

 とはいうものの中止する様な状況ではなく、10分程で準備が整った。

 本流なのか湖なのか判断し難いような広大な水面を、2人で出港する。

 濁った水面には目立った流れはなく、少し弱い風が吹いていた。

 しかしそれも日没に近付く程に穏やかになるらしい。

 先行するサトーさんから一定の距離をとって、俺も同じ方向に進みながらルアーをキャストしていく。
  尚、俺は一般的な引けば沈むタイプのルアーを使っていく。

 濁った水面で投げては巻くを繰り返しながらサトーさんを追って1時間程経った。

 周囲の水面では時折何かのライズや捕食音が出始めたものの、俺のルアーに生命反応は現れない。

 微妙な空気を感じていた頃、不意にその空気が破られた気がした。

 遠くに居るサトーさんの方を見ると、なにか取り込んでいる様子だ。

 え・・?今、何か見えたぞ?

 慌てて自分の仕掛けを回収し、サトーさんの元に漕ぎ進む。

 すると恍惚の表情で振り向いた彼は、体高のある大きな魚を見せてくれた。

 それはなんと大きなルアーを咥えた本命のブラックバスだった。

 うおお、すっげえ!




サトーさんの本命



 釣り上げられたブラックバスを見たのは生まれて初めての事である。本当に居るんだ・・!

 釣れる気がしないって言ってたのにこの人は・・。

 サイズは40Cm程でサトーさん的には「小さい。」との事だが、それまでの閉塞感は一気に消え去った気がした。

 新たに勧められた小さな流れ込み周辺を探っていく。

 何時の間にか風も治まっていて、雲が消えた空は穏やかな環境を創りあげていた。

 そんな中、無心に棒引きしていた俺のルアーにHIT!

やったぜ初ハス"

 たいしたサイズではないが、本日初の魚信に興奮しながらリールを巻くと、8寸位の銀白色の魚体が上がってきた。

 ・・が、回収する寸前に針が外れて、濁った水面に落ちてしまった。

 今のは一体・・?

 周囲を見回すと何かのライズがそこらじゅうで波紋を作っている。

 今こそチャンス!

 と、思って投げた次の投入で再びHIT。

 魚信を存分に楽しんだうえで慎重に回収してみると、釣れたのは8寸程の初めて見る魚。

 やった、これが“天竜鰯”ことハスだ!

 確かにオイカワに似ているが、鱗は大きくて鰯に例えられるのもわかる風貌だ。

 そして何より特徴的なのがへの字に曲がった口である。

 さすが、コイ科にして唯一の魚食専門といったところか。

 きっと琵琶湖辺りから稚鮎に混じってやってきたのだろう。

 慣れないルアーに喰いついてくれて感謝・感激だ。

 サトーさんの元まで引きずっていって報告すると、祝福してくれた。




サイズアップいけるか?



 よかった、ここまで連れてきてもらった甲斐があったな。

 散々撮影に付き合せた後、リリースしてサイズアップを目指す。

 すると程なくしてまたHIT。

 今度のはそこそこの手応えがあって、ブラックバスかと思ったが・・。

 釣り上げた魚は丸い輪郭で、一瞬鯛を釣ったのかと錯覚してしまった。

 よくよく観察して思いつく。

想定外がもう一つ

 これはブルーギルってやつか!初めて釣ったな。

 想定していなかった獲物に興奮してまた撮影する。

 周囲のライズや捕食音も最高潮といったところか。

 ブルーギルもリリースしてラストスパートをかける。

 比較的大きな支流の流れ込みは期待に反して魚信は無く、いよいよマヅメも極まってきた。

 帰還する方向に戻りながら、探っていく。

 そして大きな障害物の脇で、本日最大級のHIT。

 なかなかの手応えを往なしながら上がってきたのは尺越えの銀白色の魚影。

 やった、ハスのサイズアップか!?

 ・・と思ったら、釣れたのは地元でも馴染みのウグイであった。

 ぐああっ、やはり釣れてしまったか。

 一応撮影してからリリースする・・。

 そして19時近くになって入渓地点まで戻ったものの、とうとう本命のサイズアップは叶わなかった。

 サトーさんは帰り際に一度バラシがあったものの、追加は得られなかったようだ。

 暗くなりつつある川岸で片付けをしながら今日の釣果を思い返すと、疲労感も心地良い。

 最初は色々心配だったが、始めてみれば天候も落ち着き魚信もそこそこあって充分に楽しめた。

 これは是非とももう一度TRYして、天竜鰯のサイズアップと、初ブラックバスを釣ってみたいと思う。

 何から何までお世話になったサトーさんに感謝。

 

ここにも居たかOTL





戻る